雑感

読んで面白かった本を要約しています。主に事業・プロダクト開発(PdM/UXデザイン/マーケティング)のビジネス書と社会科学(経済学/経営学)・人文科学(哲学/歴史学)の古典。

■要約≪ローマ人の物語1≫

 

今回は塩野七生氏のローマ人の物語を要約していきます。「ローマ人の物語」「ギリシア人の物語」「十字軍物語」などで有名な著者であり、本書は代表作となります。1は「ローマは一日にして成らず」の上下巻の上巻であり、紀元前8世紀~5世紀までのローマ誕生から共和政ローマまでの移行期およびその前時代のギリシア文明に関する言及が中心です。

 

ローマ人の物語1」

古代ローマを楽しく知るために、おすすめする本【目的別で紹介】 | 古代ローマライブラリー

■ジャンル:世界史・歴史小説

■読破難易度:低(非常に読みやすい文体で書かれており、一部物語調なのでサクサク読めます。世界史の教科書や地図を手元に置いて読むとよりわかりやすくなります)

■対象者:・ヨーロッパの歴史について興味関心のある方全般

     ・ローマの栄枯盛衰の変遷を詳しく理解したい方

≪参考文献≫

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ローマ黎明期

・ローマはロムルスとその配下のラテン人により紀元前8世紀に建国されました。ロムルス元老院民集という3つの政治機構をまずは構築しました。王は市民選挙による選出という形式を採用しており、この時代の元老院は長老100名により構成され、王に対しての助言機能を果たしていました。ラテン人はみな独身男性であったので異民族の女性を集団略奪する必要に迫られ、サビーニ族から女性を略奪し戦争に勝利して和平を結び自国に取り込むことで集団の基盤を構築しました。

ロムルスが37年の統治の後に急死した後はサビーニ族のヌマが王の座に即位しました。ヌマは農業や牧畜業の振興に力を注ぎ、あまり戦いをしないようにして国の統治基盤を形成しました。建国当初から他民族国家であったこともあり、職能別組織の構築暦の導入などの社会システム整備に奔走しました。ヌマが合計43年の統治をした後は3代目がラテン系ローマ人のトゥルス・ホスティリウス(32年の治世)・4代目がサビーニ族の王アンクス・マルキウス(河に橋をかけ住居面積と防御壁構築に努め、塩田事業を行うなど基盤を構築)・5代目は北イタリア半島の盟主、エトルリアの血を持つタルクィニウス・プリスコ(37年の治世)と続いていきました。タルクィニウスの治世は物凄く秀でていたとされており、具体的には元老院議員の倍増・下水事業の実施・大競技場・神殿などの公共設備建設などを行いました。これを実現する技術は生まれ育ったエトルリアから持ち込むという芸法を見せました。

・タルクィニウスが気に入った奴隷出身のセルヴィウス・トゥリウスは6代目の王として即位します。防衛政策としてローマの7つの丘を囲う城壁建設事業を推進することとなり、更なる国力増強・優位性拡大に寄与したとされます。加えて、軍制の改革納税者=選挙権を有するという政治制度の改革なども行いました。

・セルヴィウスはタルクィニウスの子供に暗殺されることとなり、息子が7代目のローマ王となります。彼の息子セクストゥスは蛮行を行い一家の名誉を損ない、彼ら一族をローマから追い出す機運が高まることになります。タルクィニウスの治世は25年で終わり、約245年続いた王政(紀元前750~509年)は終焉を迎えることになります。これ以後、ローマは共和政へ移行「市民集会により選ばれた2名の執政官により政治が遂行される時代」を迎えます。政治基盤が未熟な時代には中央集権型のトップダウン統治が有効であり、王がいずれも長生きしたことで優れた基盤をローマは構築したとされます。

 

共和政ローマ

ルキウス・ユニウス・ブルータスが王を追放し、共和政開始を宣言しました。市民集会により選ばれた2名の執政官により1年任期で政治を行う体制が始まりました。ブルータスはタルクィニウスの親戚にあたり豊富な情報を持ち合わせながら大局を見て判断が出来たと考察されます。共和政の統治能力を高める為に元老院の権限を強め元老院議員は300名体制に増強しました。ブルータスと双璧をなした執政官ヴァレリウスエトルリアとの戦いを指揮しブルータスなき後の共和政を統治しました。彼の振舞いは贅沢品が多くまるで王政を彷彿するようなところがあったのでローマ市民から疑念を抱かれまいした。こうした中で、懐柔策として様々な法律を制定してローマ市民からの求心力を得て統治体制を安定化することに腐心せざるを得なかったとされます。

・ヴァレリウス・ププリゴラは結局合計6年間の執政官を担うことになり、共和政ローマ初期の基盤構築を牽引しました。塩を国有化して貨幣や産業基盤を形成し、他国からのローマ移民を優遇するなどの政策を用いて基盤を整えようとしました。エトルリアの盟主プロセンナと和平を結び国の治安を安定させた後でヴァレリウス・ププリゴラは死にました。

 

古代ギリシア

ギリシア文明は紀元前2000年にクレタ島から始まったとされます。首都クノッススは紀元前1300年頃に衰退していくことになり、以後はギリシア本島南部のミケーネ文明が牽引していくことになります。彼らの生き様を記述したのがイリアスオデュッセイアです。トロイ遠征などをしていたことで災いし紀元前1200年頃にミケーネ文明は滅び、主役はドーリア民族へシフトします。

ポリスと呼ばれる都市国家が勃興し、ドーリア民族が基盤のスパルタアカイア人(純粋ギリシア人)のアテネが有力ポリスとして台頭していくことになります。ギリシアは紀元前8世紀くらいまでは王政⇒貴族政をしていましたが都市工業に勤しむ中産階級の台頭を受け、民主主義の道に政治体制が変容していきました。ソロンが改革をなした代表的な政治家の1名です。人口調査・資源配分の把握・私有財産制の認可・選挙権の認可など現代風の政治体制を紀元前6世紀に行った凄い人です。

・ソロンが退位した後に多数の有力諸侯が交錯する形になり無政府状態を迎え、僭主ペイシストラトスが台頭することになります。20年の独裁政権では商業や海軍・運輸業強化など国力増強に努めており、平和な時代を迎えていたとされます。その後はクリステネスクレイステネス)が台頭し、区画整備や民集会の権限を強化し民主政の基盤を作るなどした改革を牽引しました。行政機関のような骨組みを構築し、身分制度を緩和するなどして政治システムの構築を急ぎました。独裁リスクを避けるための陶片追放制度を構築したのもこの時です。

ギリシア文明においてアテネと双対をなす有力勢力スパルタは民主政治でなければ独自の強さを誇る文明でした。支配層であった階級と商工業を担い被支配層であったペリオイコイという明確な区分がされた社会でした。ドーリア人が力を占有しており、異民族のペリオイコイは兵役を課せられながら参政権はないといった厳しい統治体制でした。

・紀元前5世紀頃に中東世界を統一したペルシアギリシア文明と戦争をして覇権を争うことになるペルシア戦争が起こります。この時代からバルカン半島は中東(アジア)・ヨーロッパの小競り合いをする地域であったことがわかります。ペルシアは地中海の利権主張・宗教的な優位性という2つの大義名分をもってギリシア文明に戦争を仕掛けることとなります。一枚岩ではないギリシア文明に対して巧妙な外交を仕掛けて、スパルタ・アテネなどの有力ポリスを攻撃していく展開となります。アテネは巧妙な重装歩兵部隊の連携もあってペルシア王国の攻撃を退けることに成功しました。この時代のアテネを率いたのはテミストクレスであり、国庫強化と海軍増強に努めて自国防衛出来る体制を整備しました。ペルシア戦争は最初はペルシア王国が有利に進めましたが、サラミスの海戦を機に形成は逆転し小アジア陸軍はスパルタ・海軍はアテネが率いて侵攻していくことになり、紀元前478年にペルシア王国がバルカン半島から撤退して終結することとなります。

・事後の体制構築としてデロス同盟というギリシア文明全体の同盟を構築することなり、功績からアテネが主導していくことになりました。海軍を中心に軍隊を組成して治安維持に努めましたが、アテネの支配圏が気に入らず後にスパルタデロス同盟を撤退、ペロポネソス同盟を構築することに繋がります。

 

【所感】

・超大作ということで読み始める心理ハードルが高く後回しにしていた本ですが、非常に読みやすく時系列や人物の特徴が際立つように記述されており面白いです。古代ギリシアやローマは馴染みがないこともあり、世界史を勉強した際には年代や用語を丸暗記して凌いだ記憶があったので本書の内容で線で繋がる理解が出来たことは非常に良かったです。

・ヨーロッパ文明を理解する為にはギリシア・ローマ二大文明の構造・変遷を理解することが欠かせないと思っており、近現代の深い理解には周り回って本書のような古代を理解していくことが必要だなと再認識した次第です。理解を整理する意味も込めて都度読んだら要約を投稿していこうと思います。

 

以上となります!

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫

 

今回は安藤昌也氏の「UXデザインの教科書」を要約していきます。その名の通り、「製品やサービスを使う時の体験を狙って高める営み」であるUXデザインの概念について人間工学の研究・IOS策定の歴史・体系化されたフレームワークなど関連テーマを網羅的に取り扱う当該分野の鉄板本です。本書は内容盛り沢山である為、2回に分けて要約します。後編の今回はPARTⅢ(プロセス)・PARTⅣ(手法)をまとめます。

 

「UXデザインの教科書」

楽天ブックス: UXデザインの教科書 - 安藤昌也 - 9784621300374 : 本

■ジャンル:IT

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されているので読みやすいですが、プロダクトマネジメント・エンジニアリングいずれかのバックグランドがあったほうが理解しやすいかと)

■対象者:・UXデザインの概略を掴みたい方

     ・サービス・プロダクト開発に従事する方全般

     ・人間の感情や行動の変遷に興味関心のある方

※前編の要約は下記※

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■UXデザインプロセス

・UXデザインプロセスは下記7段階で構成され、それぞれに固有の理論やフレームワークが発達しています。

【調査・分析】

①利用文脈とユーザー体験の把握

②ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索

【コンセプトデザイン】

③アイデアの発想とコンセプトの作成

④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化

【プロトタイプ】

⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細化

【評価】

⑥実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価

【提供】

⑦体験価値の伝達と保持のための指針の作成

 

■①利用文脈とユーザー体験の把握

・まずは想定顧客(ユーザー)と製品・プロダクトの利用文脈・環境を把握することから始まります。市場調査・統計調査などではなく、実顧客にヒアリング・観察するなどをして実態のインサイトを得ていく方法(エスノグラフィ)が有用とされ、具体的には観察・インタビュー・フォトエッセイ・「実際にユーザーが普段行う環境下で通常の方法をユーザーにやってもらい、行為を観察しながら気になった点をその場で質問する」コンテクスチュアㇽ・インクワイアリーなどを用いることが主流です。

 

■②ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索

・想定顧客(ユーザー)の利用文脈・環境を把握した後はユーザーストーリーマッピングジャーニーマップのような形で複数のペルソナを描き、分布や課題・ソリューションの方向性を整理することがUXデザインにおける初期仮説設計の第一歩です。行動パターン・価値の優先順位・想定分脈への習熟度・制約条件などの切り口でMECEに整理するのが基本ステップとされます。UXデザインにおいては特定の価値観やセグメントに深く刺さるように設計することが必要であり、なぜなら「お金を払ってでも解決したい問題を解決するプロダクトでないとビジネスとして成立しないから」です。

 

■③アイデアの発想とコンセプトの作成

・実現するべき体験価値の方向性を見出だした上で、ビジネスとして実現するソリューションのアイデア出しをするプロセスになります。ここで「実現可能性」や「成長性」・「収支」などを考慮してオプションを比較検討するステップに入ります。ユーザーペインや動向を起点に、定性情報の把握・ストーリーメイキングをしていくのがUXデザインの基本的な考え方ですが、このプロセスだけはリーンキャンバスやビジネス環境の調査など「ビジネスとして実現可能なソリューションでUXデザインできるか?」という観点が強く入ります。このフェーズでUXデザインの確からしさを担保するための事前シミュレーションとして、「体験価値を扱うバリューシナリオ」・「活動を扱うアクティブシナリオ」・「操作を扱うインタラクションシナリオ」の3階層でユーザーストーリーを記述するのが一般的です。

 

■④実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化

・上記が完了した段階で改めて実現するユーザー体験と利用文脈の視覚化をすることが大切とされており、プロダクトビジョンやアウトカムに立ち返るのが大切とされます。ここで避けるべき陥りやすい過ちは機能開発に終始するビルドトラップ状態です。ユーザーにとって機能は手段の一つに過ぎず、作り手(UXデザイナー・エンジニア・プロダクトマネージャー)にとって重要な機能開発や各論の作りこみはどうでもいい点を見失ってはいけません。

 

■⑤プロトタイプの反復による製品・サービスの詳細

・その後は「構造の検討段階」⇒「振る舞いと認知の検討段階」⇒「見た目のデザインの検討段階」⇒「デザインの洗練段階」のステップを踏んでプロトタイプを作りこむことが大切とされます。プロトタイプを評価する際にはヒューリスティック評価と呼ばれる人間中心設計を網羅した観点を学会で定めた基準で測定するステップを遵守することが大切とされます。具体的には「システム状態の視認性」・「システムと現実世界の調和」・「ユーザーコントロールと自由度」・「一貫性と標準化」・「エラーの防止」・「記憶しなくても見ればわかるように」・「柔軟性と効率性」・「美的で最小限のデザイン」・「ユーザーによるエラー認識、診断、回復をサポートする」・「ヘルプとマニュアル」の10項目です。

 

■⑥実装レベルの制作物によるユーザー体験の評価

・プロトタイプを用いた仮説検証の有効性が証明され、実際のリリース前の最終調整に入ります。β版を用いて、定量・定性で指標を設定しそれぞれの状態ゴールを満たしているかを確かめます。テストを行う際には「何を確かめる為のテストか」・「どんなインサイトが得られたら良しとするか・ダメとするか」などを事前に設計・ステークホルダーと合意形成する手順を怠ってはいけません。加えて、機能が担う行程毎・想定ユーザー毎にゴール状態ノックアウト項目を設定するのが大切とされます。

 

■⑦体験価値の伝達と保持のための基盤整備

・ここからの工程は主にプロダクトリリース後を指し、製品以外での顧客とのタッチポイントの科学(販売経路・マーケティングの精査)や利用後のアンケート調査(効果測定)などを行う流れになります。UXはプロダクトの一部になるので、ビジネス全体としての整合性という文脈でビジネスモデルキャンバスを用いて精査、ロードマップ策定などに繋げていくことが求められます。尚、UXデザインはロゴやブランドイメージ・タグラインなどのマーケティングブランディングに整合性を持たせるよう働きかける必要があり、一貫した線を形成出来ているかは当該部門とすり合わせし続けるのを欠かしてはいけません。

 

【所感】

・本書は理論や基本概念を網羅的に記述しており、各論詳細は本書記載の参考文献を学習してくれという導線になっており非常に読み応えのある内容でした。参考文献もこれから随時読み込みをして理解を深めていきたい次第です。UXデザインはプロダクトマネジメントの中心に据え置かれると共に、営業やマーケティング・組織マネジメントなどの知見と融合するものであり、UXデザイン領域の奥深さと実践的で馴染みのある概念を感じました。

・UXデザインを考える上においては「誰のどんな問題を解決し、どのような状態にするか」という問いに対して解を導きだすことを何時如何なる時も絶やさないようにすることが大切なのだと感じ、ユーザーありきですしビルドトラップなんてもっての外ということもよくわかりました。不確実性の高い非定型業務であっても狙って成果を出す方法論やフレームワークがあるのであれば、まずは基本に忠実に学び実践して急所を体得していくことが大切でありこれは企画関連業務全般にも言えることなのだろうと改めて理解を深めた次第でした。

 

以上となります!

 

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫

 

今回は安藤昌也氏の「UXデザインの教科書」を要約していきます。その名の通り、「製品やサービスを使う時の体験を狙って高める営み」であるUXデザインの概念について人間工学の研究・IOS策定の歴史・体系化されたフレームワークなど関連テーマを網羅的に取り扱う当該分野の鉄板本です。本書は内容盛り沢山である為、2回に分けて要約します。前編の今回はPARTⅠ(UXデザインの概要)・PARTⅡ(基礎体験)をまとめます。

 

「UXデザインの教科書」

楽天ブックス: UXデザインの教科書 - 安藤昌也 - 9784621300374 : 本

■ジャンル:IT

■読破難易度:低~中(平易な言葉で記述されているので読みやすいですが、プロダクトマネジメント・エンジニアリングいずれかのバックグランドがあったほうが理解しやすいかと)

■対象者:・UXデザインの概略を掴みたい方

     ・サービス・プロダクト開発に従事する方全般

     ・人間の感情や行動の変遷に興味関心のある方

≪参考文献≫

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■リーン顧客開発

■要約≪リーン顧客開発≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■UXデザインとは

・UXデザインとは使う人がサービスや製品の効用を享受する体験を高める営みであり、根底にあるプロダクトを通じた課題解決の実現可能性やロイヤリティ・LTV向上などのビジネス成果に寄与します。UXデザインは開発対象のドメイン知識や心理学・行動経済学マーケティング・ソフトウェア開発・UIデザインなどの知識・理論と相乗効果を成し、プロダクト価値を想定顧客に適切に届け、価値を最大化させる役割を果たします。その為、プロダクトマネージャーは勿論のことエンジニアリング部門やビジネス部門(営業・マーケティング)においてもUXデザインの概念を抑えて事業場の意思決定・運営することが何よりも大切とされます。

・UXデザインはモノを作れば作るだけ売れた時代が終焉し、モノで溢れた時代において「如何に想定顧客に選ばれ、想定顧客の制約条件(価値観・行動・心理の変遷)を留意した形で製品・サービスを提供していくか」の一連の流れを設計し、狙って価値を届ける動作全般がスコープとなります。

・UXデザインの重要性はデジタルテクノロジーが発展した現代においてより増しています。なぜならテクノロジードリブンのモノづくりでは人間ではなく、技術が中心となった仕様・導線になってしまうことが自然であり、それでは適切にユーザーに価値が届きません。(ユーザーが製品やサービスを正しく認識し使いこなすことが出来ないので、価値を認識出来ないという事態が発生する為)「人間の為に製品・サービスの価値提供プロセスを編み直すこと(人間中心設計)」がUXデザインの神髄です。

・UXデザインの必要性が認知され叫ばれるようになったのは2007年にスマートフォンが爆発的に普及してからとされます。操作性を評価するユーザビリティだけでなく、感情面や心理の変遷などを捉える情緒的なプロダクト価値も評価しようという潮流になったことで(UXがプロダクトの競争優位や方向性を定義するまでに重要な要因となったから)局面は大きく変化しました。UXは学問的には人間工学の領域であり、情報系や建築系の一部に包含され、社会システムという意味では工学は勿論、経済や文学(心理学)的な横断的な概念と言えます。

 

■UXデザインを効果的に行う為の考え方・フレームワーク

・体験価値が重視される経験経済の局面となった現代において「顧客に正しく価値を届けて体験価値を付与し、顧客が抱える問題解決や得たいゲインを獲得できる」ようにすることがプロダクト開発におけるUXデザインの最大の役割となります。UXデザイナーは「顧客に憑依し、知識や行動・感情の制約条件、前後の動作を理解すること」が大切になり、テクノロジーの知見も必要ですが同じくらいEQ的なスキル・知見が不可欠な複合技と言えます。

・上記を効果的に実行していく為には体系だった手順に沿い、フレームワークを用いて仮説検証していくのが望ましいとされ具体的には「誰をどんなふうにしたいのか」のビジョンをゴールとして、重要論点・検討ステップを設計・合意、KA法ジャーニーマップで可視化、ユーザーストーリーマッピングに落とし込み機能開発・仮説検証の優先順位付けをしながら進めるのが基本形式となります。ユーザーストーリーマッピングはペルソナの心理・行動の変遷から解くべき機能・お題の選定・検討をしていく為の効果的なフレームワークです。これらも過去20年くらいで一気に整備・体系化された時代であり、まだ人間中心設計のUXデザインは過渡期なのです。

UXデザインはとにかく「想定顧客をどんなステップでありたい姿にしたいか」のシナリオメイキングから具体的な機能開発や導線設計が不可欠です。ユーザーインタフェースのプロトタイプを検討する為にはABテストで重要仮説を検証することを徹底しないといけなく、モックアップと呼ばれるプロトタイプを作ることもUXデザイナー業務範囲になります。

 

■UXデザインの階層構造

・UXは「戦略→要件→構造→骨格→表層」と5つの階層構造であり、具体になればなるほどUIデザイナーやエンジニアの世界で、戦略や要件はUXデザイナーやプロダクトマネージャーのスコープです。UXデザインは人間中心設計を実現し、価値を届けるためにユーザーや製品サービス、ビジネス(ビジネスモデル・組織人材・システム)に働きかけます。デザインにはグラフィックデザイン、インターフェースデザインも含まれ、いくらUXデザイナーであろうともUIデザインの最低限の知識は必要になります。

・プロセスを作りこむ際には・製品関与度自己効力感でユーザーをライト・マニアなどにプロットし、ユーザーのバランスやUIUXの作り込みの方向性を定めるマーケティングのような活動がつきまいます。体験価値は経験的知識・累積的UXや利用体験の階層構造で形成されます。

・UXデザインを推し進める上では人間中心デザインプロセス(HCD)の6つの原則を留意して進めることが望ましいとされています。

「設計がユーザー・タスク・環境の明確な理解に基づいている」

「ユーザーが設計と開発全体を通じて参加している」

「設計がユーザー中心の評価により実施され洗練されている」

「プロセスを繰り返している」

「設計がユーザーエクスペリエンス全体に取り組んでいる」

「設計チームが学術的なスキルと視点を取り込んでいる」

具体的には「調査⇒企画・仕様検討⇒設計⇒評価⇒提供」と決まった検討手順が定められており、「UXデザインを通じてどんな問いを解くのか?」・「想定ユーザーはどんな制約条件下でプロダクトを雇用し、前後にどのような心理や行動の変遷を経るのか?」を把握し、具体的なソリューション・機能の優先順位付け・重要仮説検証・KPI設計するなどが具体的な後続手順とされます。

※認知工学・人間工学・感性工学はUXデザインにダイレクトに直結する学問領域であり、周辺領域として認知心理学社会心理学文化人類学などがあり関連学問を体系的に学ぶことはUXデザインのスキルセットに相乗効果をもたらすとされます。

 

 

【所感】

・事業開発・プロダクトマネジメントについて学びを深める中で自然とUXデザインに辿り着き本書を読んだのですが、モノであふれる時代にUXデザインに留意することが事業運営上大切であることがよくわかりました。感覚で理解していたものを理論で明瞭に言語化された感覚です。

・発達した理論に忠実にフレームワークを用いてもれなく・ダブりなく効果的に仮説検証~機能開発していくのが実際の流れである点はプロダクトマネジメントに通じる所があると感じた次第です。また、UXデザインの基本プロセスである「想定顧客の感情や行動の変遷、その裏側にある物語や制約条件を捉え、抽象化・課題設定する」行為は営業やマーケティング・組織マネジメントにおいて自分自身が磨いてきた思考プロセスと極めて通じるものを感じ、これは人間中心設計というUXデザインのグランドルール故に構造的に類似するのだと理解しました。

 

以上となります!

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫

 

今回はマーティ・ケーガンの「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメントを要約していきます。プロダクトマネジメントの鉄板本と名高く、著者はHPやeBayなど様々なテクノロジー企業で活躍した当該分野の第一人者の一人です。本書は内容が盛り沢山の為、2回に分けて要約していきます。後編の今回はPARTⅣ~Ⅴを取り扱います。

 

「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント by マーティ・ケーガン · OverDrive: ebooks ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:低~中(プロダクト関連職種初学者でもわかるように記述されており、入門書としてもおすすめです。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・UX・マーケティング分野で優れた成果を上げたい方

     ・新規事業・イノベーションの原理原則に興味関心のある方

※前編の要約は下記※

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■製品発見

・プロダクトの構想を練り、プロダクトビジョン・ロードマップ策定をしていく中でプロダクト開発チームは「顧客はこれを買ったり使うことを選んでくれるか?」という価値のリスク・「ユーザーはこれを使いこなし価値を理解できるか?」というユーザビリティのリスク・「私たちはこれを作れるだろうか?」という実現可能性のリスク・「このソリューションは私たちのビジネスに貢献するだろうか?」という事業実現性のリスクに対する問いに答えることが求められます。ユーザビリティや性能の改善で利用率やロイヤリティ・LTVを高めることは勿論ですが、「そもそものプロダクトのコアバリューが顧客に刺さっていて、問題を解決しているのか?」という問いは常に検証し続ける必要があります。

 

プロダクトマネジメントを効果的に進める為のフレームワーク・お作法について

OKRプロダクトビジョンの実現ロードマップの推進をする際に、「ステークホルダーと目線を合わせて頑張る方向性を間違えないようにするための具体的なマネジメント手法」になります。語源の通り、目的(アウトカム)の為の重要な結果指標をマネジメントするという考え方で、プロダクトマネジメントの思想に忠実です。

カスタマーレターは「仮想のプレスリリースを描き、誰をどのように幸せにするのかのゴールから逆算して製品開発マネジメントをする」というもので、Amazonが黎明期からプロダクトマネジメントに用いた考え方とされます。

・ビジネスモデル選定・競合調査・価値定義などのプロダクトを取り巻く構造把握を開発メンバーと効果的に行う為にリーンキャンバスが有効です。また、プロダクトのCore・想定顧客を定めた後はカスタマージャーニーマップを基にプロダクトバックログの記述、機能開発の優先順位付けを可視化するユーザーストーリーマッピングなどを用いてエンジニア・デザイナーなどのプロダクト開発メンバーと効果的に共通認識を形成していきます。これらは認知コストを最小化し、かつ漏れなくダブりなく重要事項を抑えるために最適なフレームワークとされます。

・プロダクトが解決するペインが深刻であったり、市場規模が大きくないと顧客獲得単価(CPM)が膨大になり、収益性は低く、プロダクトの顧客ロイヤリティは低い上にLTVは引き上がらないといった事象が発生します。初期仮説検証にあたり、市場ニーズを見極めるためにロイヤルカスタマーを複数見つけられるか調査探索し、それまではスケールしないというのがプロダクトマネジメントの基本方針とされます。リファレンスカスタマーを容易に獲得できないとなると、仮説検証や市場調査の絶対量が足りないか顧客ニーズが深刻ではないという話です。尚、この手の問題を解く際に有効なソリューションはABテストユーザーインタビューです。

 

■プロダクト開発における望ましい文化について

製品開発チームに最高の文化を形成していくことが最も生産性が高まるレバレッジポイントであり、その組織風土を構築・形成するのがプロダクトマネージャーです。「傭兵ではなく、伝道師のような狂ったようにビジョンにとりつかれ、ビジョンを通じてアウトカムを実現するにコミットする」を徹底するのができるのが優れたプロダクト開発チームです。「サイロ化しないように創造的なコミュニケーションを取り続け、かつそれでいてビジネス収益はしっかり担保できるようにしておくこと」が徹底できるのが優れたチームマネジメントであり、プロダクトマネージャーはプロダクトビジョンを通じてプロダクト開発チームをリードし続ける役割にあります。

・上記は「顧客中心の組織文化」・「魅力的な製品ビジョン」・「的を絞った製品戦略」・「製品発見へのエンジニアの参加」など重要論点を抑えておけば狙って実現することは可能とされます。

 

【所感】

・後編はプロダクトマネジメントに纏わる代表的なフレームワークの活用方法や具体的なコトの進め方にフォーカスした内容となっております。その為、やや散文調になる為内容を掻い摘んで要約しました。プロダクトマネジメントは非連続な成長を牽引し、不確実性に対峙し続ける役割であるからこそ、理論に忠実(フレームワークやプロダクト開発の言語・概念を活用徹底する)であることが何よりも大切であるということが複数の書籍を読んで理解したことです。プロダクトマネジメントとはUXデザインやマーケティング・事業開発領域の思想・フレームと通じる所があり、関連領域の知見を学びながら実践し続けることで総合的に高めていくスキルセットであると改めて感じました。

・機能開発やデリバリーに終始することなく、「誰のどんな問題を解決したいのか?」・「どんなアウトカムを実現したくプロダクト開発を進めるのか?その優先順位はどのようになり、なぜその優先順位付けになるのか」など汎用的に解くべき問いがあり関連職種の場数をこなして言語に馴染んでいくのがまずは必要なのだろうと感じました。その為、気が付いたらプロダクトマネージャーのロールをしていたというキャリアが多く発生するのは上記の仕事の役割故であるとよく理解出来ました。

・労働供給制約社会が今後発生していく中で、人手で全てのビジネスプロセスデリバリーを完結していたサービスがプロダクト化していくということが社会の大きな潮流になると思っています。いわゆるDXなどはその最たる例ですがこうしたテーマ感に対して付加価値を生み出せるビジネスパーソンとして経験や知識・スキルを自発的にセットしていきたいなと改めて考えさせられる内容でした。

 

以上となります!

■要約≪自省録≫

 

今回はマルクス・アウレリスの「自省録」を要約していきます。マルクス五賢帝の一人に数えられるローマ帝国の偉大な皇帝であり、正当派ストア派哲学者でもあります。自省録というタイトルの通り、マルクス自身に対して自戒の念を込めた十二の短編集の集合体となっています。本書は岩波文庫の青シリーズの中でも非常に取っ付きやすく、古代ローマ史の勉強にもなる内容です。

 

「自省録」

【自省録】レポート | 読書オタク&資格オタク おさるのブログ

■ジャンル:哲学

■読破難易度:低(哲学に関する知識は不要です。古代ローマギリシアの歴史に明るいとより面白く読めるかと。)

■対象者:・ストア派哲学について興味関心のある方

     ・ギリシア哲学・古代ローマ史について興味関心のある方

     ・内省を深めたい方

 

≪参考文献≫

■国家(上)(下)

■要約≪国家(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪国家(下)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■ローマ人盛衰原因論

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

■要約≪プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

マルクス・アウレリウスについて

マルクス・アウレリウスパクス・ロマーナを牽引したローマ皇帝であり、名家の血筋に生まれ、ハドリアヌス皇帝に好かれアントニヌス・ピウスの養子になり皇帝の後継者として使命を受ける形でローマ皇帝に即位しました。は読書と瞑想にふけり、内省的であることを好んだマルクス・アウレリウスストア派哲学の名手として名を馳せました。

ストア派哲学は論理学倫理学物理学で構成され、「自然の摂理に忠実に生きる」・「禁欲的にある」など宗教的な思考体系を持つのが特徴です。マルクス・アウレリウスローマ皇帝という現実のなまなましい問題を対処するのに生きる人でありながら禁欲の精神のストア派哲学に勤しみ、その矛盾があったからこそ美しいまでに研ぎ澄まされた考えがアウトプットされたと本書は評されます。

プラトンは「哲学者が政治をすること」を理想と説きましたが、それが実現したのがストア派哲学のマルクス・アウレリウス皇帝でした。感慨や思想を断片的にギリシア語で記述する癖があり、それを収録したのが自省録であり、自分を顧みるように記述している為、断片的で読みづらい特徴があります。

 

ストア派哲学の基本概念について

人間は自然の一部であり、宇宙の法則に忠実に生きること即ち理性的にあり続けることが至高であるというのがストア派哲学の基本思想です。その為、「自然の流れに身を任せ死を恐れないこと」・「自然の摂理、宇宙の法則の流れに逆らい、衝動的に行動すること」・「序列や名誉を重んじるといった人間的で自然界に存在しない概念を愚かであると批難すること」などが典型的な思想形態です。他人に不可侵な平穏を精神世界に見出すことが生きる意味であるとして内省的にあり、論理学・倫理学・物理学の探究に勤しめと奨励します。

・「人間は宇宙の一部であり、定められた配分に忠実に生きて自然の摂理にない私利私欲に走るのは控えよ」という禁欲的なスタンスがストア派のポイントであり、慎み深い・素直である・思慮深いと評される生き方は宇宙の法則に忠実であり、誇るべきとされます。あらゆるものの法則を理解しようと思案・行動することは宇宙の法則を理解する営みであり尊いとされます。

 

■人間の社会的な感情について

・「宇宙の法則に忠実にあり自然の摂理を体現することが至高である」とするストア派哲学の立場であるマルクスはそのローマ皇帝という極めて名誉と俗に触れる世界の中で、自分が社会の潮流に飲み込まれないように哲学の原理に反することを戒めるように何度も同義の主張を繰り返すのが本書の特徴です。代表的なものとしては無知なものや道理を弁えないものに対しては攻撃的になったり労苦を厭うのではなく「耐えろ」という考え方や「快楽に溺れる・衝動的な行動に身を任せる」というのは精神が未熟であり、理性的ではない敗北的な姿であるといった具合です。

・また、上記に加えて宗教のような妄信的なものにすがる様を退廃的と非難しキリスト教に対して批判的な立場をとりストア派哲学の立場を徹底した皇帝である点や「万物は生々流転し、死後の名声は忘却に過ぎず今を全うせよ」という古代ギリシア哲学的価値観が本書の随所に垣間見える点も特徴的です。

 

■精神的な意味報酬について

・「周囲から受ける賞賛というのは麻薬のようなものであり、賞賛は感情を動かすことは事実だがこれに支配される生き様は他人に人生の主導権を渡しているに等しい状態である」という当代の社会情勢・価値観に対して一石を投じる考えを披露しています。また、「誰かの役に立てたということそれだけで精神的な意味報酬があるのに、それを自分がしたと名声や対価報酬を求めるのは極めて愚かである」という立場も表明しております。

・自然の法則に従うことが絶対であり、他人の幸福や自分の不運に感情を揺るがされるのは哲学的におかしいと問題提起します。他人に蔑まれてもそれは自然の法則的にはおかしな訳でそうせざるを得ない制約条件があったと理解・受け止めるべきストア派哲学的な解釈を提唱します。

 

【所感】

古代ギリシア~ローマの歴史と思想に興味関心が募っていた中で、本書に触れストア派哲学の考え方と合わせて学ぶことが出来たのは非常に良かったです。「禁欲的な生き様を通じて自然界の法則を体現せよ・我々は宇宙の一部である」という思想が根幹に脈々と流れており、一貫した主張が手を変え品を変え展開されていく本書の構成は非常に印象的でした。それだけ思想を徹底することや誘惑・俗に触れる場面が多いローマ皇帝という地位でのストア派哲学実践が大変であったことが伺えました。

・本書で度々言及される名誉や物理的な待遇・報酬とどのように折り合いをつけるかというのは人間が社会的な生き物であり欲深いからこそ永遠のテーマであるように感じていて、後世においてもプロテスタンティズムの倫理として個別論点化されたり、古代ギリシア哲学では「善く生きるとは?」というテーマで多くの哲学者が論争をするなどのものです。「言うは易く行うは難し」の典型例と感じており、多くの哲学者や歴史が当テーマについて言及・考察しているので引き続き読み進めながら理解を深めたいと感じました。

 

以上となります!

■要約≪戦争論(中)≫

 

今回はクラウゼヴィッツ氏の戦争論を要約していきます。クラウゼヴィッツプロイセンの軍人で、ナポレオン一世がヨーロッパ大陸を席巻した時代を生きた将帥兼軍事学者です。本書は孫子と並んで有名な戦争や戦略を扱った古典的著作です。上中下の三部構成となっており、今回は中巻の内容を要約します。上巻に比べて、戦術や具体的な戦争に言及する内容が多くなっております。

 

戦争論(中)」

【感想・ネタバレ】戦争論 中のレビュー - 漫画・無料試し読みなら、電子書籍ストア ブックライブ

■ジャンル:政治・経営戦略

■読破難易度:中(抽象的な言葉遣いが多く、ニッチな近代戦を引き合いに出す為若干読みづらいかもしれません。主張は一貫してシンプルなので、慣れてくれば読みやすいかも。)

■対象者:・政治・外交・戦略に関わる方全般

     ・18~19世紀の戦争史について興味関心のある方

※上巻の内容は下記。

■要約≪戦争論(上)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

≪参考文献≫

■外交談判法(軍事と構造的類似役割を持つ外交官の役割について)

■要約≪外交談判法≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■権力と支配(政治力学・軍の組織構造について)

■要約≪権力と支配≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■戦闘について

・第四篇は「戦争の大半を占める戦闘行為に関する法則とその結果がどのように全体に波及するのか」について考察する内容となっております。敵戦闘力を撃滅させる行為が優れた戦闘と定義され、戦略は戦闘の掛け合わせで構成されます。戦闘における利益は「自軍の損失よりも敵軍の損失が大きいこと」・「何らかの土地や地理的な条件・権利を獲得することが出来たこと」などで図られます。

・戦闘は攻撃なのか防御なのか偵察なのか陽動なのかにより、得たい成果や価値基準が変動するものであり、一義に可否を判断することは出来ません。基本的には防御は攻撃よりもやりやすく、資源や地形の差など絶対数が戦争の勝敗をわけるものであり、資源の相互作用に関する働きかけが多くの戦略・戦術を占めます。

・本戦は主力の勢力をぶつけて政治目的の遂行・講和持ち込み、資源制約働きかけなどをする重大な戦を指し考察対象になります。近代戦においては軍の隊列が優位性の源泉でした。その為、隊列を崩す奇襲や陣形が有効な戦術足り得ます。地形や陣地、気候もそうした隊列や陣形に寄与するとして有効な資源に見なされていました。会戦においては兵力戦になり、援軍をどれだけ補給できるかで精神の摩耗度合いやシンプルな頭数の差が見られるので将帥は全体を見渡し資源の配分や戦力の差分を見立てることが出来ます。戦争の大きなウェイトを占める会戦は会戦の勝敗単独だけで決定的になることは少なく、大概は勝利に付随した追撃による追加資源獲得や敵戦力殲滅がより重要とされます。

 

■戦闘力について

・第五編は戦闘力に関する考察で「戦争における勝敗の大半は純粋な兵力の数の差である」とするのがクラウゼヴィッツの主張です。戦略や軍の士気などが戦闘力にレバレッジをかけるのは間違いないが、基本的には数の暴力が戦争の基本原則であるとされます。追撃により兵力を軽減し、精神的な士気を下げることが戦争における果実となります。「兵力をむだに消耗しない戦い方を選んでいくこと」・「組織の相互作用が発揮されるように戦略を組み立て、ビジョンを打ち立てて鼓舞すること」が将帥の重要な役割です。

・兵種は主に歩兵騎兵砲兵で構成されており、これらの兵種のポートフォリオを組み相互作用をさせて成果を上げるのが戦略を描く人の仕事です。歩兵は独立的な動きをしており、戦争における基盤を作る重要な形態となります。騎馬兵はいてもいなくても戦闘は成立するようです。砲兵は戦闘・戦術の幅をもたらすが歩兵とのかみ合わせが非常に難しく将帥の手腕が露骨に出るとされます。「歩兵・騎兵・砲兵のバランス」・「戦闘目的が攻撃・防衛のいずれか」により、取れる戦術は変わり、自ずと最適な組織形態や戦い方は決まるという話です。

・上記に加えて、軍の一般的な配備の意味・先進部隊の動作・野営・行軍・舎営・給養・土地と地形など戦略の周辺にある個別重要論点に関する考察と代表的な近代戦の考察などが列挙されております。

 

■防御

・第六篇は防御に関する考察です。「待ち受けるという性質」・「地形の利を活かす戦い方を選択できる点」において防御は攻撃よりも構造的に容易な選択肢です。防御は保持という消極的目的をもっており、攻撃は攻略という積極的目的を有するものです。「劣勢故に採用することが多いという防御の性質」・「攻撃は最大の防御」・「戦わずして勝つが至高」などの教訓故に見逃される性質ですが、防御の方が攻撃よりも容易なのはゆるぎない事実として本書では主張されます。

・攻撃の戦術は奇襲土地及び地形の有利諸方面からの攻撃の3点で考察されます。防御する側は土地と地形の有利を最大限活用することが出来るだけでなく、奇襲も容易にすることが出来る為に、攻撃側よりも有利に展開できるとされます。防御陣営の圧倒的な有利を覆すためには「凄まじい物量戦」「奇襲を組み立てる戦術構築」が欠かせないということになります。

・上記に加えて、防御に関する個別論点として要塞・防御陣地・堅陣地・側面陣地・山地防御・河川防御・沼地防御などの可否についての考察が淡々と続いていきます。

 

【所感】

・本書はナポレオンフリードリヒ大王及び彼らの関連する戦争に関する引用・考察が非常に多く、戦争論が記述された時代背景やそれだけ近代戦は近代戦特有の性質を持つということが浮き彫りになります。戦略と戦術の間にあるような個別論点については戦争の詳細についてわからず、かつ図示化なども無い為少々読みづらさを感じました。

・「守りは攻めよりも楽である」という定説に対して抵抗するようなクラウゼヴィッツの主張が大規模に展開されていく様が本書の一番の見どころと言えるでしょう。古代の兵法書(特に中国)では兵種や地形は戦略・戦術に寄与する超重要テーマとされていますが、近代戦では平均的な投下物量の違いや火器の発達などにより前提が大きく違うということが言えるのだと感じました。

 

以上となります!

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫

 

今回はマーティ・ケーガンの「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメントを要約していきます。プロダクトマネジメントの鉄板本と名高く、著者はHPやeBayなど様々なテクノロジー企業で活躍した当該分野の第一人者の一人です。本書は内容が盛り沢山の為、2回に分けて要約していきます。前回の今回はPARTⅠ~Ⅲを取り扱います。

 

「INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント by マーティ・ケーガン · OverDrive: ebooks ...

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:低~中(プロダクト関連職種初学者でもわかるように記述されており、入門書としてもおすすめです。)

■対象者:・プロダクトマネージャー・事業責任者を志す方全般

     ・UX・マーケティング分野で優れた成果を上げたい方

     ・新規事業・イノベーションの原理原則に興味関心のある方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメント

■要約≪プロダクトマネジメント≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロダクトマネージャーについて

・プロダクトマネージャーはマーケティング部門に所属しながらセールス・エンジニアリング・デザインなどに対しても造詣がありながら関係者をやり繰りして「プロダクトビジョンの実現」と「ロードマップの推進」に責任を持ちアウトカムをもたらすことがミッションです。「顧客に愛される製品をつくり、ペインを解きユーザーの課題解決・ゲインをもたらすものであることに腐心すること」がプロダクトマネージャーの何よりも大切なスタンスとされます。

顧客が抱える課題を解決しながらビジネスニーズを満たす道を模索し、責任を持つのがプロダクトマネージャーです。膨大な責任と仕事量をこなすのが基本的で、平均で週60時間近く労働しているのが基本とされます。デザイナーやエンジニアからのピボットがIT業界のプロダクトマネージャーとしては多く、CEOが兼務しているケースも多いです。オンラインとオフラインの融合を通じて顧客体験価値をデザインし、LTV最大化と顧客課題解決を両立するのがITプロダクトマネージャーの基本的に目指すゴールとなります。こうした性質故に、プロダクトマネージャーは事業責任者やCEOを目指す上での登竜門とされます。

 

■プロダクトマネージャーに必要な能力・経験・マインドセットについて

・プロダクトマネージャーは性質的に非常に過酷な役割であり、プロジェクトマネージャーやビジネスアナリストとは似て非なるものです。「ビジネスセンス」・「主要な幹部との信頼関係」・「顧客に対する知識」・「製品に対する情熱」・「製品開発チームとの関係性」などがないとなしえない役割とされます。全てのビジネスは顧客に依存しており、顧客が誰でどんな問題を解決するかのプロダクトの方向性を決めることがプロダクトマネージャーの最大の役割です。ステークホルダーを会議室に招き、意思決定をして進めていく委員会形式のプロダクト組織運営をしているロードマップ管理者はご法度とされます。上記の仕事の性質故にドメインの圧倒的な理解(顧客の仕事の進め方・購買プロセス・行動や心理の変遷など)と知識・経験に立脚した筋の良い打ち手仮説を設定し続けることが欠かせないスキルセットとされます。

・また、プロダクトマネージャーは知的好奇心があり、新しい技術や知識に常にキャッチアップし続ける頭の良さが明確に求められる役割でもあります。加えて、プロダクトの方向性を決める為にステークホルダーとのコンフリクトを恐れず説得・合意形成し続ける精神的な粘り強さも必要といった具合に総合格闘技の要素が強いとされます。

※尚、上記ミッションを部下や人事権を持たない非公式な力でステークホルダーに働きかけるという制約条件つきで進めるという難しさがついてまわります。

プロダクトマネジメントにおいてはコンピューターサイエンス経済学経営学の造詣を持つ人が多いですが、「人間の問題を解決しビジョンを形成する」というその性質故に芸術哲学歴史政治に明るい人が偉大なプロダクトマネージャーに多い要件のようです。これはユーザーの課題や行動・心理・制約条件に関する深い洞察力に紐づく学問領域だからと考えられます。偉大なプロダクトマネージャーは「我々の顧客は誰でどんな問題を解決しているのか?」・「それを自社がやらないといけないのはなぜか?」という問いに対して絶対的な解をおけるように考え、行動し続けることを徹底しているとされます。

 

■製品開発チームのマネジメントについて

・製品ロードマップはシニアステークホルダーの関心毎に翻弄される運命にあり、具合が悪いことにロードマップで掲げたことの半分程度は実現されません。というのも「価値の欠如」・「ユーザビリティの欠如」・「実現可能性の欠如」など様々な制約条件が計画と実績で乖離しうる宿命にあるからです。「アウトプットではなくアウトカム志向であれ」というのが製品開発組織のあるべき組織風土になります。そして、それを下支えするマネジメントシステムがOKR(Objectives and Key Results)ということになる※OKRは目標は定性的であり、主要な結果は定量的に客観指標であることが導入・運用の鉄板原則とされます。

・プロダクトビジョンは熱狂的なものでなくてはならず、組織目的や何を目指しているのかの道しるべとなります。プロダクトビジョンをステークホルダーと合意形成して日々のコミュニケーションでも徹底することが優れたプロダクト開発の原理原則であり、狂ったような宗教的なチームが理想とされます。そして、それは機能開発に終始するビルドトラップが上記を軽視している状態の象徴と言えるのです。ディテールの作りこみは柔軟にピボットしてもいいですが、プロダクトビジョンを朝礼暮改するというのはプロダクトマネジメントが稚拙な状態と言わざるを得ないと本書では記述されます。

プロダクトマネジメントにおいてはユーザーストーリだけでなく、プロトタイプを作ることや顧客インサイトや成果を惜しみなく共有し続けて間接的にビジョン浸透を徹底することが欠かせません。「傭兵ではなく伝道師たれ」というのはわかりやすいプロダクトマネジメントチームの原理原則です。純粋にプロダクトチームと長い時間を過ごすことやUXデザインマーケティングに明るくあることが不可欠であり、「プロダクトビジョンの体現」と「ビジネスとしての採算・成長性を描くこと」も責任範囲であり、極めて範囲が多岐にわたるものです。

 

【所感】

・当該分野の先駆者として名高い本ということもあり非常にわかりやすく網羅的かつ体系的に記述されており、読みやすいです。プロダクトマネージャーというと、エンジニアリングの造詣が重要なようにイメージされますが、本書ではエンジニアリングと同じくらいUXやマーケティングが大事であり、ドメイン知識やプロダクトマネジメントの経験の場数も大切と記述されています。なので、マーケティングや販売部門の責任者がピボットする形で事業開発・プロダクトマネジメントのような役割を担うケースが多いのかと非常に納得でした。

・オーナーシップの範囲と課題設定~問題解決の深さが似たような役割を求められる仕事に直近従事する中で、プロダクトマネジメントのお作法は非常に刺激的で勉強になると共に自分の不勉強さと必要な知識・経験の多さにびっくりします。特にUXデザインについては集中して勉強し土地勘をつけていくことが必要ではないかと感じており、近々UXに纏わる勉強を集中的に進めようと考えている次第です。営業やマーケティング・組織マネジメントの経験に通じるものがあり、改めてドメイン知識や顧客接点部門の経験・知識・スキルの応用範囲の広さにはびっくりする次第です。

 

以上となります!

 

 

 

 

■要約≪ローマ人盛衰原因論≫

 

今回はモンテスキュー「ローマ人盛衰原因論を要約していきます。「法の精神」で有名なモンテスキューですが、ペルシア人の手紙」と合わせて有名な三部作の一つです。既に絶版となっており入手困難な本ですが、ヨーロッパ史と歴史研究の面白さが詰まった本で非常に魅力的な内容です。「古代に一代帝国を築き上げたローマがなぜ滅びたのか?」の問いに対しての要因分析が考察の中心となっており、暗喩的に当時のルイ14世の絶対主義批判をしている点が注目です。

 

「ローマ人盛衰原因論

『ローマ人盛衰原因論 (岩波文庫)』(モンテスキュー)の感想(9レビュー) - ブクログ

■ジャンル:歴史・政治

■読破難易度:中(ヨーロッパ史や政治・法律の基礎があると面白く読めます。自分は世界史の教科書を手元に置いて、時折読み返しながら読みました。)

■対象者:・ローマ帝国の盛衰に興味関心のある方

     ・歴史研究から普遍的な法則を見出すプロセスを味わいたい方

     ・政治・法律について学びを深めたい方

≪参考文献≫

■法の精神

■要約≪法の精神 第一部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第二部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第三部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第四部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第五部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪法の精神 第六部≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

古代ローマ勃興~ローマ帝国形成まで

・ローマは広大な土地を支配するだけの軍術建築技術に優れており、多数の人民を支配下に取り込み軍力の維持・拡大が出来たとされます。統治の為、インセンティブを働かせるために「恒常的に戦争に明け暮れる必要」があり、必然的に戦争技術が高度に発達した文明となりました。文化・文明の基盤の多くはギリシアから借用・発展したものが大半であり、ラテン文学やローマ法を除いて独自路線の文化はあまり発達しなかったとされます。

古代ローマは当代のカルタゴスパルタなどの政体に比べて圧倒的に軍事力が強く、規律と徳を重んじる質素な風土がありました。それが古代ローマの競争優位の源泉と見なされました。植民地や軍隊組織のマネジメントに優れており、共和政元老院を政治機関のトップとしながら絶妙に力関係の均衡が保たれるバランスを国全体で持ち続けていたことが凄みとされます。

「人民の利害の代表として護民官」・「貴族の利害の代表として元老院」があり、時に独裁官(ディクタトル)が強制執行をするなどの均衡と柔軟性が古代共和政ローマには見られました。モンテスキューの見立てとして、共和政ローマはこの絶妙な均衡(人民⇔貴族)や議論プロセスを経る透明性の担保された政治意思決定が徹底されたことで常に競争・改善の力学が働き最適化され続けたのが凄い」と評しています。

 

共和政ローマが腐敗の道へ進むこととなる決定的な要因について

モンテスキューは共和制末期に流入してきたエピクロス(紀元前4世紀頃)の思想が禁欲と規律ある精神を誇ったローマの精神性を堕落に導き、帝政への移行ローマ帝国崩壊への決定打になったと見なしています。共和政ローマにおいては商業や手工業は奴隷の営みとされて、貨幣保有インセンティブは乏しかったです。農業軍事組織に従事し、戦争で功績を挙げていき名誉を高めることがこの社会における美徳と見なされておりそれこそが強大なローマの国の規律と競争力を形成していました。

第一回三頭政治ポンペイウスクラッススカエサル)・第二回三頭政治オクタウィアヌスアウグストゥス)・アントニウスレピドゥス)を経て帝政へ移行する頃には自由と規律ある風土は崩壊しており、広大な土地のローマ帝国をその強さを保ちながら維持することはほぼ不可能な状態になっていたとモンテスキューは評します。

 

帝政ローマについて

・共和政時代と異なり、帝政において元老院は皇帝に従属し立法と司法の執行にフォーカスするような立ち位置に陥っていました。政務官選出の権利だけはまだ人民に付与していましたが、ティベリウスの時代にこれも元老院に帰属するようになり、実質的に皇帝独裁の道を進みました。「国の強さと安定基盤」をインセンティブとして、独裁的な皇帝政治をすることを成立させたローマ帝政衰退・崩壊は必然の流れであったし、これと同じことを当時のフランス(ルイ14世の絶対主義)はしていると暗喩しているのがモンテスキューの本書におけるスタンスです。

アウグストゥスまでの時代に整備された「ローマ法に基づいた司法機関」・「元老院による立法機関」という機能は初期ローマ帝政で崩壊し、私有財産権や司法権は無法地帯になってしまいました。「皇帝による実質的な専制政治はよくない」ということで君主制と行政執行機能を付与した三権分立制による政治機構が理想であるというモンテスキューの結論に辿り着きます。

 

五賢帝ローマ帝国分割・西ローマ帝国滅亡

アントニヌス・ピウス(138~161年)、その養子であるマルクス・アウレリウス(161~180年)がローマ皇帝の時代はギリシアからスコア派哲学が持ち込まれ、禁欲と徳の精神がはぐくまれ安定的な治世が実現しまいた。「人間についての見解を深めることが自分自身の理解・自己実現に繋がる」という示唆をもたらしました。ネルウァトラヤヌスハドリアヌス両アントニヌス賢帝と呼ばれ、安定的かつ威厳ある治世を収めた後はその強大な領土と軍事力による暴力的な政治支配のスタンスをする皇帝統治が続き、ローマ帝国は腐敗の道を進むこととなります。

・広大なローマ帝国を支配するだけの資源とカリスマ性を有した皇帝は軍人皇帝の時代に現れず、東西に帝国は分割し、コンスタンティノープル遷都・キリスト教国教化による支配試みなどの変遷を経て、帝国外部に存在したフン族ゲルマン民族・ゴート族などの脅威も相まって四世紀に西ローマ帝国は滅亡しました。

 

西ローマ帝国滅亡後の東ローマ帝国ビザンツ帝国)の動きについて

・蛮族が団結して集中攻撃をしたことで西ローマ帝国は崩壊しましたが、彼らは利害が一致しただけで相互連携する気はありませんでした。野蛮で野心的な民族達は自分達のテリトリーを確保して資源をほしいがままにしようと目論みました。ゴート族・フン族の勢力がそれほどでもなくなった時に、東ローマ皇帝ユスティニアヌス(527~566)はイタリア半島北アフリカの再征服を企てることとなります。西ゴート族ブルグンド族ランゴバルドなどの蛮族たちにキリスト教が受け入れられる中で、征服を円滑にする為に、東ローマ帝国で主流であったアリウス派からアタナシウス派に改宗するという大胆な意思決定をユスティニアヌスは決断しました。こうした征服事業をしている中で東ローマ帝国は周辺民族を軍事勢力として取り込みマネジメントするようになり、他民族国家の基盤が出来上がっていきます。一方で、ユスティニアヌスは長く皇帝に在位し、往年は老害じみた状態であったとされます。周辺民族のマネジメントにほころびが出て、東ローマ帝国の中東領土が周辺民族の手に渡るようになっていきます。

 

 

【所感】

・本書は「法の精神」に比べてテーマがシンプルであり、歴史考察のウェイトが強いので読み物として面白くかつ読みやすいのが印象的でした。共和国足る均衡が保たれた状態が最強であったのに「一部の権力・権威が集中する」帝政に移行したことでその強みが失われ崩れたというモンテスキューの一貫した主張が印象的です。モンテスキューマキャベリ同様、共和政ローマを推奨しており、カエサルアウグストゥスなどの五賢帝が支配する帝政ローマを強く批難しています。「主要な傾向があらゆる個別出来事を引き起こす」という歴史の必然性に迫るような真理・法則を見出だそうとしているのが本書のモンテスキューには見られ、これは現代に通じる歴史の学問的意義です。一方で、本書は政治・軍事史に特化した内容となっており、社会経済学的な考察がない点は弱いと解説では評されています。

・本書は政治・法律に関して後世に大きな示唆を与えており、また歴史や学問を学ぶことは普遍的な法則や因果関係を理解し、思考を深く柔軟なものにせしめる効用があると気付かせてくれる本です。時間を置いて読み返してみたいと思える非常にワクワクする本でした。

 

以上となります!

■要約≪プロダクトマネジメント≫

 

今回はMelissa Perrisi氏のプロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」を要約していきます。ビルドトラップと呼ばれる著者が独自に定義した「プロダクトマネジメントにおいて避けるべき状態」を中心に言及・考察していく本です。オライリー・ジャパンシリーズの有名な著書でプロダクトマネージャーの入門書としても名高い本です。

 

プロダクトマネジメント

プロダクトマネジメント ?ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける :20211203001844-00213us:OREGAIRU工房 ...

 

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(初学者でもわかるように記述されていますが、特にプロジェクトマネジメントや事業開発などの実体験がある方にオススメしたい本です。)

■対象者:・プロダクト関連職種に関わる方全般

     ・プロダクトマネージャーとして活躍したい方

     ・非連続な成長・イノベーションに関して責任を持つ役割に従事する方全般

 

≪参考文献≫

■プロダクトマネージャーのしごと

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■ビルドトラップとは

・ビルドトラップとはプロダクトマネジメントにおいて絶対に避けなければならない定性状態を指し、具体的には「組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして行き詰っている状況」「実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況」の2つを指します。本書では、「ビルドトラップがどのような因果関係で発生してしまうのか」・「ビルドトラップを避けながらプロダクトマネジメントの役割を果たす為にはどのようなお作法を遵守しないといけないのか」について架空企業のプロダクトマネージャーのストーリーを追う形式で記述されていきます。

プロダクトマネジメントにおいては自分達が妄想する課題解決やビジョンではなく、実際に顧客が困っており、解決策を試みても実現しないもの・お金を払ってでも解決したいものなどに集中するべきということが本書では何度も主張されます。

 

■ビルドトラップを避けるためにプロダクトマネージャーが遵守すべきステップ

・短期的なアウトプットに終始せず、いつ如何なる時も「プロダクトで得たいアウトカムを第一に思考」・プロダクトビジョンロードマップに忠実に共通言語化して意思決定・コミュニケーションを取り続けるというステップを異常なまでに遵守することが何よりも大切と本書では主張されます。予算制約やシニアステークホルダーの関心毎の変容・プロダクトチーム内の利害関係の衝突(専門性とその違い故の価値基準や優先順位の相違)などのビルドトラップ誘発の環境に立ち向かい秩序をアップデートし続ける為にやり繰りするのをプロダクトマネージャーが何よりも拘らないといけないとされます。

・一般的にプロダクトマネージャーは「権限はないが責任は伴う」という立場に置かれる為、上記を実現する為に目に見えない組織力学(ビジョンや信頼残高起点で)を働かせ続けることが業務遂行に伴います。顧客の声・ファクトやプロダクトが描きたい世界・方向性などを道しるべにステークホルダーとの折衝、プロダクト開発の優先順位付けを常にしていくことが求められます。

 

■プロダクトマネージャーのキャリアパス

・大規模なプロダクトになると、プロダクトマネジメント業務を分業して役割分担して果たすということが発生するようになります。プロダクトマネージャーは主に戦術運営戦略の3つのバランスが異なるという形でキャリアステップを歩んでいくことが一般的です。プロダクトマネージャーになるにはソフトウェア関連職種や営業・マーケティングからの社内異動を経ることが多く、その後はプロダクトマネージャー特有の経験を積み上げていくことで習熟を図る必要があります。上記構造になるのは「ドメイン知識に明るく、事業戦略をプロダクトの観点から実現していくプロダクトマネージャーの総合格闘技なロール」を加味した際に、何かの専門性を起点にピボットして従事してもらうことが組織において最適解になることが多いからです。

・プロダクトマネージャーの第一歩の役職は主にアソシエイトプロダクトマネージャーと呼ばれ、主に戦術(機能を作って世に出すという短期的な行動)が中心であり、開発やデザインとのディレクション業務がウェイトを占めます。プロダクトマネージャーは「経験と実践」で身に着ける要素が強く、関係各者と資源を「やり繰り」する要素が強く、習熟方法も経験と実践ベースであるのがプロダクト「マネージャー」な点です。アソシエイトプロダクトマネージャーが成長した先にプロダクトマネージャーのポジションがあり、開発チームやUXデザイナーと協力してチームでソリューションを考えて形にしていくことになります。現場に行き、ユーザーと対話し仮説検証を行い、機能の観点から意思決定に責任を持つようになります。機能の仕様と方向性について、「プロダクト全体のビジョンとの整合性を取る」のもプロダクトマネージャーの役割であり、まだ戦術中心であるが運営の要素が増え、戦略にも造詣がないとバリューを発揮できないフェーズとなります。

・プロダクトマネージャーが習熟した先にシニアプロダクトマネージャーが存在し、主に戦術の中でも高難易度案件や運営・戦略のウェイトが増える状態を指します。プロダクトビジョンやロードマップについても権限・責任を持つようになっていくのが実際だ。ここまではピープルマネジメントを担わないことの方が多いです。その後のキャリアはプロダクト担当ディレクタープロダクト担当VPCPOといった具合に職階を経ていきます。

※どの職種も共通して精神的なタフさリーダーシップ仮説検証~定量分析~課題設定~ソリューション実現(ステークホルダーとの折衝を経て)などが必要とされます。

 

■ビルドトラップを助長する環境因子について

・報酬とインセンティブは代表的なアウトプット思考を育み、ビルドトラップを招く因子です。また、プロダクトマネジメントの成功において、プロダクトマネージャー自身の信頼残高・プロダクトチームの共通言語/心理的安全の担保は生産性を左右する重要指標でこれらが育まれないと不毛な干渉や会議が多発してしまい、ビルドトラップが自然発生します。

・予算制約も短期的な成果や思考を促進する制約条件とされ、これは投資家から調達した資金を用いて収益や成長性を短期・中長期で示し続ける必要にある企業の宿命とも言えます。これらの制約条件の中でプロダクトマネジメントの役割を発揮するのは至難の業ですが、それでも遂行できるように資源や環境をやりくり・働きかけ続けることでプロダクトビジョンを実現することが求められます。

※あらゆる企業がプロダクトアウトからマーケットインにシフトしていく中で、プロダクトマネジメントという独特の役割を付与しないと安定した成長戦略を描くことができずビルドトラップに陥るようになりました。その必要性や商流にインターネットが組み込まれるようになってきたことがトリガーとなり、プロダクトマネージャーの重要性は一気にこの10年くらいで向上したわけです。

 

【所感】

・ひどく矛盾した精神的にタフな役割を求められるプロダクトマネージャーの難しさと重要性を再認識させられる内容でした。事業責任者やCEOの登竜門とされ、非連続な成長と事業価値の向上にコミットする為に、「顧客起点で青写真を描き、旗を掲げ続けるダイナミックさ」を感じた次第です。自分自身がプロジェクトをリードする役割を担う中で、また自社サービスがプロダクトの方向に舵を切る潮流にある中でプロダクトマネジメントの役割・お作法を自分の中に組み込みバリューを発揮できるようにならないといけないと強い危機意識を持つ中で、本書は非常に考えさせられる内容でした。

・自分自身が「お金を払ってでも解決したい問題を解決し、顧客(ユーザー)のありたい状態を実現する」を意思決定基準の中心に据えて思考・行動するを直近のテーマとしている中で本書で記述されるお作法・ステップは非常に学びが深かったです。コミュニケーションコストを削減し、共通言語化する為にフレームワークを活用し合意形成を円滑に進めるというのはバカにならないと改めて感じた次第です。

 

以上となります!

■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫

 

今回はMatt LeMay氏の「プロダクトマネージャーのしごと」を要約していきます。自身の様々なプロダクトマネジメントの経験からプロダクトマネジメントの日々の業務と実践について、様々なテーマ・ケースを用いて体系的に論じた本です。初学者は勿論、中堅~ベテランPM向けにもキャリアの展開方法など含めて記述されており盛りだくさんの内容となっております。

 

「プロダクトマネージャーのしごと」

O'Reilly Japan Blog - 9月新刊情報『プロダクトマネージャーのしごと 第2版』

■ジャンル:開発管理・IT・経営

■読破難易度:中(初学者でもわかるように記述されていますが、氏特有の記述方法に慣れるまで若干の読みづらさがあるかもしれません。PjM・PdMいずれかに従事した上で読み込むことをオススメします)

■対象者:・プロダクト関連職種に関わる方全般

     ・プロダクトマネージャーになりたい方

     ・事業開発・企画スタッフのスキル・経験を高めていきたい方

 

≪参考文献≫

プロダクトマネジメントのすべて

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

 

【要約】

■プロダクトマネージャーとは

・プロダクトマネージャーは人と物をつなぎ成果を出す仕事であり、ビジネスUXテクノロジーの3つに精通しバランス感覚を持ち、時に役割を柔軟に変えていく総合格闘技のような側面を持ちます。様々な領域の知見やスキルが必要になりますが、究極的なミッションは「曖昧さ解消に努め、人とモノを繋げることを通じてプロダクトとビジネスのアウトカム最大化にコミットすること」となります。

・プロダクトマネージャーの急所のスキルはコミュニケーション・組織化・リサーチ・実行の4つとされ、極めてソフトスキル偏重とされます。プロダクトマネージャーはプログラミングスキルがなければ務まらないという役割ではなく、むしろドメイン知識やステークホルダーマネジメント経験などが根幹を成すとされます。

・プロダクトマネージャーの難しさは「自分と一緒に働く直接のインセンティブがないチーム外の人と一緒に働く点」・「責任は大きいが権限は小さい点」・「コミュニケーションやファシリテーションなどいわゆるプロダクトマネージャーな仕事ではない要素が割合として多くなる点」・「言葉の定義や役割の境目など曖昧さに対峙する点」などがあげられます。専門性の異なるステークホルダー(例:エンジニア・デザイナー・セールス)との折衝の複雑さや上位組織・戦略に責任を持ち、常に情報の非対称性がある中で対峙を求められるシニアステークホルダー(例:役員・部門長)の存在など頭を悩ませる事象は様々存在します。

 

■プロダクトマネージャーに求められる資質・職業倫理

・プロダクトマネージャーは上記役割から明らかなように、様々な領域に首を突っ込み続けて、時に組織図上の指示命令系統にない関係者を巻き込んだり、急にあるテーマへ責任を持つということが恒常的に発生する役割です。それ故に、柔軟に知識やスタンスをアップデートすることに加え、あらゆる事象への知的好奇心が根本的に必要とされます。

・また仕事の性質上、曖昧さが恒常的に発生する環境の中で前提条件や価値基準を揃えコミュニケーション齟齬が起きないように仕事を整理することや関係者と定期的な認識すり合わせをすることなどが欠かせません。その為、論点を精査して議論設計をしていく基本的なクリティカルシンキングが強く求められる役割となります。シニアステークホルダーに振り回されたり、資源(予算・工数)制約条件の中でどのように青写真を描くか・どの順番で課題解決していくかという旗を掲げ続ける精神的なタフさと一種の社内政治スキルが必要です。なので、ドメイン知識に明るい顧客接点部門経験のある人がピボットしてプロダクトマネジメントに従事するというケースは案外多いとされます。

 

ドキュメンテーションについて

ドキュメンテーションは「仕事の曖昧さを解消し、プロダクトとビジネスのアウトカムを最大化する」プロダクトマネージャーの重要な仕事内容であるが、あまり時間をかけ過ぎても役に立たない代物でもあることも理解しようと強く本書では主張されます。WBSやロードマップなどはプロダクトマネジメントをする上で重要な物差しとなりますが、管理・運用を最適に行うのは至難の業であるのも事実です。ロードマップは戦略的なコミュニケーションをする為の骨格を炙り出す為のツールに過ぎず、ビジュアルなどを作りこみすぎないのが大事なポイントとされ、本書では「1ドキュメント1時間以内」という原理原則が提唱されています。一方で、ドキュメンテーションは濫用すると勝手に資料が展開されていく悲劇にもなりかねないので、共有範囲と所有責任を明確にすることだけは徹底すべきともされます。

 

■リモートワーク環境におけるプロダクトマネジメントの難しさ

・遠隔マネジメントの場合、「お互いが早期に信頼し合うしか効果的に物事を進める方法がない」という風になるので却って効果的に物事が進むという見方が存在します。一方で、情報取得量がどうしても制御されてしまう為に、変な思い込みや相手を取り巻く労働環境に想像が回らないという事態は避けられません。ポイントは弱みを開示すること歩み寄ろうというスタンスをしっかり提示して、情報の非対称性を解消しようとすることだとされます。

・コミュニケーションの双方の基準やルールを明確にするというステップを初期に設定・合意しておくことが上記のような無駄や負荷を軽減するとされます。これは曖昧さに対峙し、コミュニケーションエンジンとなることが求められるプロダクトマネージャーにとっては非常に重要なお作法です。「非同期のツールに対するコミュニケーションスピードや基準」は人それぞれであり、この感覚のずれが仕事を混乱させたり精神的な負荷を生むことが多いので、コミュニケーションに関する当たり前基準を設定するというのはプロダクトマネジメントにおいてステークホルダーと要件定義をする初期段階でこちらから持ち込み設定するべきとされます。

・リモートワークは非同期(例:メール・チャット)的なコミュニケーションには有効ですが、同期コミュニケーション(例:オフラインのキックオフ)を効果的に行う為にはかなりの事前準備と当日の仕立てを必要とするのは性質上避けられません。創造的な対話を進めるには「事前と事後の準備活動がかなり時間のかかるものである」ということを前提に置かないといけません。なので、プロダクトマネジメントにおいてはスケジュールブロック外の目に見えない大量の整理・設計業務時間があるということです。同期ミーティングを効果的に行う為には前後の非同期な行為(事前準備・議論設計+議事録・タスク整理の事後ワーク)によるサンドウィッチ型の業務進め方が欠かせません。

 

プロダクトマネジメントの難しさ

・プロダクトマネージャーはその性質から仕事と感情の浮き沈みが絶え間ない構造にある役割です。非公式な力関係や情報資源を持って様々なステークホルダーに働きかけることでバリューを発揮することを目指す役割で、その仕事の性質故に、衝動的かつ感情的に意思決定したくなるような気持ち悪さのある場面(そうしたリアクションはプロダクトマネージャーとしてご法度とされます)が常日頃発生する中でも上位組織やプロダクトビジョンから優先順位付け・価値基準を定義していく精神的な強い規律と経験の場数が求められます。

単刀直入に言うべき所で曖昧に回答したり恐怖や怒りから衝動的に反応するはプロダクトマネージャーあるあるの失敗とされます。プロダクトマネジメント独特のお作法・ドメイン知識・経験の掛け合わせで習熟していく性質からは避けて通ることが出来ないとされます。

 

【所感】

・右も左もわからない中でPdM兼PjMのような役割に従事した自身の直近半年の仕事を顧みる意味で、何度もメモを取りながら読み進めるほど非常に面白かった本でした。要約に書き起こしていない章やテーマもたくさんあり、プロダクト関連業務に従事される方には軒並みオススメしたいといえる本です。独特のお作法(クリティカルシンキング+工程管理+ドメイン知識)と組織図上で指示命令系統にない中で専門性の異なるステークホルダーを巻き込み協業していく点やシニアステークホルダーによる環境変化(例:事業戦略の変更故に結論が急遽変わる・情報の非対称性から自身の立場では無理ゲーな方向性への合意形成)への対応など自分が従事する中で悩んだ事象があるあるであると記述されていることに非常に救われる思いでした。

・常に曖昧さや不安が付きまとう中で、それでも旗を掲げステークホルダーとやり繰りをすることでビジネスとプロダクトのアウトカム最大化にコミットするというプロダクトマネージャーの役割は非常に奥深いと再認識した次第です。てっきりエンジニアやデザイナーの上位職能と思い込んでいたプロダクトマネージャーですが、自分で関連職種に従事し本書を読んだ今の結論としてはソフトスペック偏重であり、「マネージャー」の要素が強いのでドメイン知識やコミュニケーションスキル・組織での信頼残高の保有有無の方が適性として重要なのではないかと置いています。

・関連領域の書物を読み、自身の経験とスキルをアップデートし続けることで関連職種含めてしっかり役割を発揮できるように頑張りたいと思える勇気をもらえる本でした。

 

以上となります!